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国際宇宙ステーション・「きぼう」日本実験棟での燃焼実験に成功~JAXAと山口大学の共同実験 Group Combustion実験(研究代表者:三上真人教授)~

(2017年3月 8日 掲載)

このたび、国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」において、本学大学院創成科学研究科(工学)の三上真人教授が代表を務める、JAXAとの共同実験:ランダム分散液滴群の燃え広がりと群燃焼発現メカニズムの解明(Group Combustion)が開始され、「きぼう」で初めての燃焼実験に成功しました。

本件については、一昨年の8月に本学のHPにおいて、実験機器本体が「きぼう」に届けられること、初となる燃焼実験に向けて準備を進めていることをお知らせしておりましたが、検証実験を重ねてのこのたびの成功は、関係者にとって喜びもひとしおです。研究代表者の三上教授は「日本から始まった微小重力燃焼研究が「きぼう」での実験まで辿りつき、感慨もひとしおです。JAXAを始め実験の準備に携わって来られた関係者および共同研究者の皆様、そして、研究を繋いできてくれた学生達に感謝いたします。今後数ヶ月実験が続きますので、今後の実験結果にもご期待ください。」と、喜びとともに、これから続く実験への意気込みを語ってくれました。

【実験の背景】
自動車や飛行機など多くの乗り物の燃料として液体燃料が利用されています。それらのエンジンでは、ノズルから燃料を噴射して霧状にし(噴霧)、微粒化された液滴の燃焼により発生する熱エネルギーが乗り物を動かす動力になります(噴霧燃焼)。噴霧された液体燃料が連続的に安定して燃焼するためには、燃えている液滴(燃焼液滴)から燃えていない液滴(未燃液滴)への火炎の"燃え広がり"および噴霧液滴全体が燃焼する"群燃焼"という過程が必要です。しかし、液滴間の火炎の"燃え広がり"を経て"群燃焼"が起こるメカニズムについては十分解明が進んでいません。エンジンの開発においては燃焼過程の数値シミュレーションが重要度を増しつつありますが、液滴間の火炎の燃え広がりや群燃焼の発生過程を適切に取扱うことのできるモデルの構築が求められています。

【実験の概要】
本実験は「きぼう」初の燃焼実験であり、JAXAが開発した液滴群燃焼実験供試体 (GCEM※下記参照)を用いて行いました。GCEMは、平成27年8月に、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の無人補給機「こうのとり」5号機によりISSの日本実験棟「きぼう」に本体が届けられました。平成28年に全ての構成機器が「きぼう」に到着したのを受け、ISSに長期滞在中だったJAXAの大西卓哉宇宙飛行士によって「きぼう」船内実験室内の実験ラックにセットアップされました。これまでGCEMの初期機能検証作業を進めてまいりましたが、このたび平成29年2月17日(金曜日)に実験を開始しました。
本実験では、微小重力下で液滴間の火炎燃え広がりの挙動と限界距離を少数の液滴群により確認するとともにその知見を、最多152個の多数の液滴をランダムに分散した液滴群の燃焼によって検証します。これにより、群燃焼の発生メカニズムの解明を行います。
このたびの実験では、97個の燃料液滴のダイナミックな燃え広がりの観察に成功しました。
今後、本実験によって、これまでの短時間微小重力実験で得られた少数液滴の燃焼に関する知見と液滴群燃焼を理論的に結びつけることができると考えられています。また、群燃焼の発生メカニズムが解明されることにより、噴霧燃焼の数値シミュレーションの高度化が可能となるため、高効率で環境に優しいエンジンの開発にも大きく寄与するものと期待されています。

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燃え広がる様子(JAXA提供)

【実験機器】
液滴群燃焼実験供試体:GCEM(Group Combustion Experiment Module)
日本で初となる軌道上での燃焼実験を行う装置で、燃料液滴群(燃料を霧状に噴射した状態を模擬するための小さな粒状の燃料の集まり)の燃焼メカニズムを調べます。地上で燃焼実験を行うと、高温の火炎と空気の温度差のため強い自然対流が発生しますが、微小重力環境では熱による自然対流が起きないため、燃焼という現象そのものに焦点をあてて詳細に観察することができます。
GCEMは、燃焼容器、燃料供給装置、観察装置、電源通信制御装置、給排気装置から構成されており、燃焼実験は、地上からの遠隔操作により燃焼容器の中で行われました。実験の様子は、観察装置に取り付けられた高速度カメラとデジタルカメラで撮影され、電源通信制御装置を介して地上に送られてきます。

[20170307]国際宇宙ステーション・「きぼう」日本実験棟での燃焼実験に成功~JAXAと山口大学の共同実験 Group Combustion実験(研究代表者:三上真人教授)~4実験方法の概略図(JAXA提供)

【Group Combustionの研究者】 ※PI:研究代表者、CI:研究分担者
 PI:三上真人、山口大学 大学院創成科学研究科 教授
 CI:野村浩司、日本大学 生産工学部 教授
 CI:森上 修、九州大学 工学研究院 准教授
 CI:梅村 章、名古屋大学 名誉教授
 CI:瀬尾健彦、山口大学 大学院創成科学研究科 准教授
 CI:菅沼祐介、日本大学 生産工学部 助手
 CI:菊池政雄、宇宙航空研究開発機構(JAXA) 有人宇宙技術部門きぼう利用センター 主任研究開発員 
 CI:Daniel L. Dietrich、 米国航空宇宙局(NASA)グレン研究センター 研究員