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魚類のウロコのキラキラ光を外部磁場を変えることで制御 ―キラキラの元物質を疑似的なフォトニック結晶としてとらえて光干渉を解明―

(2018年12月13日 掲載)

生体内で光の屈折率を制御して光反射をうまくコントロールすることで、生存淘汰などに最適の"見え方"ができるよう生き物たちが工夫していることは、これまで多くの研究報告がなされてきました。光利用を可能にしている物質として第一の候補になっているものが、地球上全ての生物のDNAの成分でもある核酸塩基の1つ、グアニンです。しかし、肝心のこのグアニンが生物の体内で形成するグアニン結晶の特異な結晶構造などの物理化学的特性はよく理解されていませんでした。

国立大学法人広島大学ナノデバイス・バイオ融合科学研究所の岩坂正和教授、国立大学法人山口大学大学院創成科学研究科 工学系学域の浅田裕法教授らの研究チームは、魚をキラキラさせる原因である非常に小さい鏡(グアニン結晶板)を磁場で操作し、これまで謎に包まれていた魚の体表の強い輝きの説明に成功しました。このグアニン結晶板が単に光を反射するだけでなく、ある程度透明性も有することに着目し、水に囲まれた空間で鏡が周期的に配列することがキラキラを起こす本当の原因であることを明らかにしました。
これまで、われわれ人類は人工的に光を利用する工夫をいろいろと行ってきました。その一方で、自然界の生物も太陽光を上手に利用することはよく知られています。生物がつくる材料の機能をまねる技術は、バイオミメティクスと呼ばれる研究分野で最近盛んに開発されています。例えば、魚や昆虫などの動物が体表の色を体の一部の周期構造でうまく光を反射させてつくりだすことは、構造色として知られています。そこで生物が光を上手に使う様子を詳しく調べることで、疾病の影響を受ける細胞の活動を光で詳しく調べることができる新しい技術に結びつくのではないかと考えました。

今回、魚の体表にあるキラキラの原因物質であるグアニン結晶と呼ばれる材料に着目した理由は、この結晶が自然界での生存淘汰・生物進化の過程で選ばれた大変効率よく光を制御できる物質とみなされているからです。身近な自然・水族館などにおいても、魚の集団による光の強さや色あいのダイナミックな変化を、泳いでいる魚の集団の動きで見ることができます。この現象もヒントに、水中でのグアニン結晶の集まりを浮いた状態で磁場で制御し、光強度の変化が反射のみでなく光干渉とよばれる仕組みに依存することをつきとめました。

グアニン結晶板の厚みは100ナノメートル程度と非常に薄いため、医療用細胞イメージング技術の際の狭い空間での光制御に最適です。今回の報告では、たくさんのグアニン結晶板が水中に浮遊した状態に磁場をかけ2倍程度にまでキラキラを強めることができました。このグアニン結晶板を細胞の近くに手鏡のようにおけば、細胞から分泌される疾病の兆しをすばやく立体的にキラリと見つけることができそうです。今後、がんなどの病気の進行を迅速に調べる新しい方法に結びつくことが期待されます。

本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)「新たな光機能や光物性の発現・利活用を基軸とする次世代フォトニクスの基盤技術」研究領域(北山研一総括)の研究課題「魚のバイオリフレクターで創るバイオ・光デバイス融合技術の開発」の一環として広島大学の岩坂正和教授および山口大学の浅田裕法教授の共同研究で行われたものです。

本研究成果は、平成30年11月19日、英国科学誌「Scientific Reports」(オンライン版)に掲載されました。
 
【発表論文】
著者
Masakazu Iwasaka* Hironori Asada * Corresponding author(責任著者)
論文題目
Floating photonic crystals utilizing magnetically aligned biogenic guanine platelets (磁場配向した生物由来グアニン結晶による浮遊型フォトニック結晶)
掲載雑誌
Scientific Reports
DOI 10.1038/s41598-018-34866-x
https://www.nature.com/articles/s41598-018-34866-x

 
研究結果の詳細は こちら [PDF:2.1MB] をご覧ください。