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大学院創成科学研究科(工学系学域)の酒多喜久教授を含む研究チームの論文がNature誌に掲載されました。

(2020年6月 4日 掲載)

世界初、100%に近い量子収率で水を分解する光触媒を開発-収率低下要因を完全に抑える高活性な光触媒の設計指針

本研究は、信州大学先鋭材料研究所 高田 剛 特任教授、久富隆史 准教授、堂免一成 特別特任教授(併任、東京大学特別教授)、山口大学大学院創成科学研究科 酒多喜久 教授、東京大学大学院工学系研究科 柴田直哉 教授、産業技術総合研究所ナノ材料研究部門 関 和彦 上級主任研究員らの研究グループが人工光合成化学プロセス技術組合との共同により、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「二酸化炭素原料化機関化学品製造プロセス技術開発」事業の一環として行った成果です。 ここでの研究成果は、持続社会の水素製造において有効な技術の一つである光触媒による水分解反応において、光触媒により吸収された光を100%に近い効率(量子収率)で利用して水を水素と酸素に分解する光触媒を開発し、その動作原理を初めて実証したことです。

光触媒とした材料は異なる結晶面が露出したAlドープSrTiO3の微粒子に、水素生成点としてRh/Cr2O3を、酸素生成点としてCoOOHを、光励起により生じた電子と正孔が光触媒粒子内部に生じる電場によって異方的に移動することを利用して、それぞれを別々の結晶表面に選択的に析出させた材料です。この材料を光触媒として用いることにより、光照射により発生した電子と正孔が空間的に分離され、再結合することなく、ほぼ100%の効率で水分解反応を進行させることに成功しました。(図を参照)

本研究で用いたSrTiO3は近紫外光までしか利用できず、太陽光を利用するには限界がありますが、微粒子状の光触媒で水分解反応を高い量子収率で進行させるための明確な動作原理が実証されたことで、今後、本研究で得られた成果は太陽光の大部分を占める可視光を高効率で利用して水の分解反応を進行させることができる光触媒の開発に関して重要な知見を与える成果となります。

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図 光触媒による水分解と今回開発した光触媒の概略図およびこの光触媒の光吸収特性とこれを用いて各波長の光で水分解反応を行った時の外部量子収率(照射光に対する反応効率)

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NEDOニュースリリース
https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101311.html 

論文情報
題目:Photocatalytic water splitting with a quantum efficiency of almost unity
著者:Tsuyoshi Takata, Junzhe Jiang, Yoshihisa Sakata, Mamiko Nakabayashi, Naoya Shibata, Vikas Nandal, Kazuhiko Seki, Takashi Hisatomi, Kazunari Domen
掲載誌:Nature volume 581, page 411-414 (2020)
DOI 10.1038/s41586-020-2278-9