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土石流サイクルと切迫度による新しいリスク評価

(2019年3月 4日 掲載)

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山口大学大学院創成科学研究科の鈴木素之教授および同大学院博士後期課程の松木宏彰院生らの研究グループが、これまで困難とされてきた土石流の発生履歴の復元に成功し、大規模土石流のサイクルが明らかになりました。切迫度の高い渓流を識別することで減災対策の向上が期待されます。

豪雨災害の被災者から「昔、ここで災害が起きた話なんて聞いたことがない」「安全な場所だと思っていた」といった声を聴くことがあります。したがって、山際や川沿いに暮らす住民にとっては、その土地がどのように形成されたのか、過去にどのようなことが起こってきたのかを知っておくことは防災上有効です。そのため、災害の記録や教訓を掘り起こし、防災面でより生かすことが求められてきました。

また、これまで土石流のリスクは、地質、地形、降雨量などから評価されてきました。例えばマサ土からなる急傾斜地に降雨が続けば崩壊のリスクが高まると評価できます。しかしこの評価基準だけでは、全国の要対策箇所は膨大な数におよび、全箇所の対策には相当の時間を要してしまいます。それでは結果的に対策が後手に回りかねない事態が危惧されます。

たとえ地質・地形が類似の条件の斜面が複数あっても、そのなかから土石流災害がより切迫している斜面を識別する事ができれば、そこを優先して対策する事もできるでしょう。そのため斜面災害の切迫度評価方法の確立が求められてきました。

このたび鈴木教授および松木宏彰院生(復建調査設計株式会社)らは、 2014年8月20日の広島土砂災害域を広域的に調査し、炭素14法によって土石流の発生履歴の復元に成功しました。この地域では約150年から400年の間隔で、大規模な土石流が発生してきたことが明らかになりました。

これは長い期間のうちに渓流に土砂が堆積して、次の土石流が発生する条件となり、切迫度が高まったところに、豪雨がきっかけとなって土石流が発生してきたと考えられます。同様の大規模な土石流のサイクル性は、鈴木教授らによる2009年の山口県防府市の土石流災害域で初めて明らかにされましたが、同サイクル性が広島でも見つかったことで、上記のモデルが多くの地域に応用できる可能性が高まりました。

本成果によれば、土石流の発生履歴を調査し、直近の大規模土石流以降、長らく静穏である渓流ほど災害が切迫していると評価できます。

全国各地の斜面の土石流履歴を調査から周期を復元し、そこから次の災害の切迫度を評価し、優先して対策を行うことで、効率的かつ有効な減災対策につながると期待されます。

また、切迫度の高い斜面周囲に居住する方は、大雨の時には早めに避難することで、適切な対応による安全確保につながることが期待されます。

この研究成果は2月8日の松木宏彰院生の博士学位審査公聴会において、発表されました。

 

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