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下部マントルの不均一性を解く鍵:沈み込みスラブを起源とするブリッジマナイトの単結晶構造物性が明らかに!

(2021年12月 6日 掲載)

山口大学大学院創成科学研究科(工学系学域)応用化学分野の中塚晃彦准教授は、高輝度光科学研究センターの福井宏之研究員(研究当時、兵庫県立大助教)および平尾直久主幹研究員、東北大学学際科学フロンティア研究所の鎌田誠司助教(研究当時)、広島大学大学院先進理工系科学研究科の大川真紀雄助教、東北大学金属材料研究所の杉山和正教授、岡山大学惑星物質研究所の芳野極教授との共同研究において、鉄(Fe)とアルミニウム(Al)の成分に富む中央海嶺玄武岩(MORB)組成から生成されるブリッジマナイト(下部マントル の主要鉱物)の単結晶合成に成功しました。この単結晶試料に対するX線精密構造解析と放射光メスバウア分光測定により、下部マントルへ沈み込んだ海洋プレート(スラブ)のうち最上部を構成するMORBすなわち海洋地殻で生成されるブリッジマナイトでは、電荷カップル置換というメカニズムのみによって、FeとAlが結晶構造中へ導入されることを明らかにしました。下部マントルの化学組成の不均一性を解く鍵を握るMORB組成から生成したブリッジマナイトの単結晶構造物性を明らかにしたのは、本研究が世界で初めてです。この研究成果は、2021年11月24日に英国の科学雑誌Natureの姉妹誌である「Scientific Reports」に掲載されました。

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ブリッジマナイトの結晶構造。珪素/アルミニウムが中心に存在する配位多面体(八面体)の結合を描いている。
ソフトウェアATOMS (http://www.shapesoftware.com/00_Website_Homepage/)で作成した。

発表のポイント
◆下部マントルへ沈み込んだ海洋地殻で生成する鉄成分とアルミニウム成分に富んだブリッジマナイトにおける鉄とアルミニウムの導入メカニズムは、それらがマグネシウム・珪素と置き換わる「電荷カップル置換」だけに支配されていることを明らかにしました。
◆歪んだペロブスカイト型構造をもつブリッジマナイトが、下部マントル深部に行くにつれて、他のペロブスカイト型構造へ相転移する可能性は否定できないことを示しました。
◆弾性波速度の一つであるバルク音速を結晶学的アプローチから見積る方法論も提案しました。この手法は下部マントル中での地震波特性を知る有力な手掛かりになると期待されます。

論文情報

題目 Incorporation mechanism of Fe and Al into bridgmanite in a subducting midocean ridge basalt and its crystal chemistry
著者 Akihiko Nakatsuka, Hiroshi Fukui, Seiji Kamada, Naohisa Hirao, Makio Ohkawa, Kazumasa Sugiyama & Takashi Yoshino
雑誌 Scientific Reports
DOI https://doi.org/10.1038/s41598-021-00403-6
掲載日時 2021年11月24日

謝辞

本研究は、以下の科学研究費補助金の支援の下で行われました。

・基盤研究(B)(課題番号:19H02004)

「X線非弾性散乱法による下部マントル条件での含鉄ブリッジマナイトの結晶弾性定数測定」

・基盤研究(S)(課題番号:15H05748)「地球核の最適モデルの創出」

・基盤研究(C)(課題番号:15K05344)

「温度・圧力を変数とした鉱物結晶化学:原子変位から読み解く地球内部の弾性異方性」

・特別推進研究(課題番号:22000002)「地球惑星中心領域の超高圧物質科学」

また、本研究は、以下の東北大学金属材料研究所共同研究プログラムGIMRTの支援の下でも行われました。

・一般研究(課題番号:15K0054)

「単結晶X線精密構造解析によるポストペロブスカイト型CaIrO3の弾性特性と構造安定性」

・一般研究(課題番号:15K0015)

「スピネル型およびペロブスカイト型化合物の精密構造解析と物性発現機構」

ここに謝意を表します。